人工知能(AI ※1)とビッグデータが社会を変える原動力として認識されつつあります。すでにAIはビジネスや生活のさまざまなシーンで適用され、新たな価値を創造しています。データから最適な解を導き出すAI技術で世界トップクラスを走る日立は、“道具”としてのAI技術と関連ソリューションをそろえ、人々の夢と幸福をかなえていきます。

※1 Artificial Intelligence

人と協調して成果を引き出すAI

「人工知能」という言葉から人々が抱くイメージはさまざまです。「囲碁や将棋で名人を打ち負かすコンピュータ?」「人と会話できるロボットかな」「仕事をとられたりしないか心配」-なんとなく“人を超える”“人と対抗する”存在ととらえられがちなAIですが、便利で快適な暮らしの実現を支えている技術の一つとして、すでに私たちの生活に欠かせない製品などに適用されているのです。

例えば、スマートフォンに問いかければすばやくアドバイスやコンテンツを表示してくれる「パーソナルアシスタント」、文字を入力する際によく使う言葉を提示する「予測変換」、ネット通販の「リコメンド」機能、そしていま注目されているクルマの「自動運転」-そのバックグラウンドで働いているのは、すべてAIの技術です。遠い未来の技術と考えられていたAIは、自ら学んで能力を向上する「機械学習」の進化とIoT(※2)/ビッグデータ技術の進展により、その成長・発展を飛躍的に加速させています。

「AIは人間と比較される存在ではありません。便利な“道具”の一つであり、一緒に知恵を絞ってくれる“相棒”と呼ぶべきでしょう。人が馬より速く走るために自動車や飛行機を使っているのと同様、AIは人に代わって膨大なデータを解き明かし、人が設定した課題にいつでも健気に答えてくれる。常に人と協調して成果を引き出すのがAIなのです」

そう話すのは、日立のビッグデータとAIの研究開発をけん引してきた株式会社日立製作所 研究開発グループ 技師長の矢野 和男です。矢野は、まだ世の中にビッグデータやIoTという言葉がなかった2000年代初めから、センサーネットワークやウェアラブルデバイスで人間活動をデータ化して自動収集する研究を開始。そこから得られたビッグデータを解析することで、ビジネスや社会生活を効果的に活性化させる数多くの知見を発見してきました。

「従来のデータ分析システムは規定のプログラムの中でデータを処理しますから、どのような観点でデータを読むかの“仮説”を最初に作り、関係すると思われるデータを選んで分析する手法をとっていました。ところがデータが大量になればなるほど全体像が見えにくくなり、仮説を立てる糸口や、どのデータが関係してくるのかさえ掴めなくなってくる。そこで悩んだ末に“人間ではなくコンピュータに仮説を作らせたらどうだろう”と気づいたのです」(矢野)

※2 Internet of Things

画像: 株式会社日立製作所 研究開発グループ 技師長 兼 テクノロジーイノベーション統括本部 人工知能ラボラトリ長 博士(工学) 矢野 和男

株式会社日立製作所 研究開発グループ 技師長
兼 テクノロジーイノベーション統括本部 人工知能ラボラトリ長
博士(工学)
矢野 和男

仮説を自動生成し、使うほど賢くなるAI

データから学習し、状況にあわせ自ら成長しつつ結果を出すシステムでは、以下の3原則に従うと、矢野は考えます。
原則1 アウトカム(目的)と入出力は人間が定義する
原則2 ドメインや問題特有のロジックは入力不要である
原則3 既存システムに追加することで動作できる

この3原則を満たすシステムとして、日立はインプットされたデータから100万個を超える大量の仮説を自動生成し、それから重要な要因を自動抽出、さらにそれを組み合わせて、どんな条件が整うとアウトカムが高まるかを特定、これらにより最適な判断を行う人工知能を開発しました。それがHitachi AI Technology/H(以下、H)です。

「これまでのAIは、すべて特定目的で使うために作り込まれた“専用AI”です。それに対してHは、どのような用途にも使える“汎用AI”であることが大きな特長です。人が到達すべき目標と入出力データを定義するだけで使えます。いちいち仮説を立てる必要はありません」(矢野)

最初に組まれたプログラムどおりに動く既存のAIは、パラメータの変更や機械学習で、ある程度は対応力を変化させることができます。しかしプログラムそのものを書き換えない以上、おのずと限界が出てきます。一方Hは、人間が定義したアウトカムとデータから学習し、状況に応じて自ら成長しつつ結果を導き出すことができます。

具体的には、現場から上がってくるデータを分析し、利益、売り上げ、コストといったアウトカムに最適な結果を導き出すための解法(仮説を実装したプログラム)を、自動生成していくのです。

「さまざまな環境変化に対し、まだ見えない未来をどう作っていくか。私たちはそれをお客さまと一緒に考えていきたいと思っています。その際に重要なのは、ダイナミックな変化にどう向き合うかです。需要も供給も価格も、お客さまの好みも、人や場所のタイミング、気候などによってどんどん変わっていきます。それを人間の経験や勘だけで判断し、迅速なシステム改善にまでつなげていくのは現実的には不可能です。ならば、データから日々の環境変化をリアルタイムにくみ取り、状況に合わせて業務システムのプログラムを書き換え、発注量や要員配置、商品配置といった適切なアクションにつなげていく、あるいは施策の提示を行うのが、これからのAIの重要な役割になると考えています。さまざまな変化に対応し、使うほど賢くなるのが日立の人工知能なのです」(矢野)

ロボットが、わずか5分で “ブランコの達人”に

到達すべき目標と入出力データを定義するだけでHは本当に賢くなるのでしょうか。日立はAIの働きをわかりやすく理解してもらうために、Hをロボットの最適制御に適用した実験装置を作りました。テーマは「ロボットにブランコをこがせる」というユニークなもの。人が定義するアウトカムは「ブランコの振れ幅の最大化」、入出力データは、ロボットの動きをとらえるセンサーデータと、駆動装置となるアクチュエータの制御データとなります。

ブランコに乗せられたロボットは、当初ブランコのこぎ方をまったく知りません。Hはどう動けばいいのか試行錯誤し始めますが、最初はやみくもに動くためほとんど揺れない状態です。しかし少しでも揺れた動作を学習し、いわゆる「こぐ」動作となり、その次にヒザを曲げて重心を動かす二重伸縮と呼ばれる技を生み出し、最後は普通の人を超えるこぎ方を獲得していきます。

「この例からもわかるように、Hは過去の実績をフィードバックして進化し、賢くなっていきます。しかも学習スピードが非常に速い。やみくもに動いてから普通の人を超えるこぎ方まで、わずか5分程度。状況変化にいかに速く対応できるかがわかります。一般的な機械学習やディープラーニングと呼ばれる手法では、これほど短時間で結果を出すのは難しいでしょう。さらにHは“このような根拠があるので、こう判断しました”という定量的な数値も提示できます」(矢野)

画像: ブランコをこぐロボット

ブランコをこぐロボット

データの奥底に眠る新たな可能性を見いだす

Hは、どのような業種においても適用することが可能です。これが“汎用”たる所以です。ある物流企業の倉庫管理システムと組み合わせた実証実験では、作業の順番を入れ替えるだけで総作業時間を入れ替え前と比べて約8%短縮することに成功。また、あるホームセンターでは「顧客単価の向上」をアウトカムとして、POSデータや店舗スタッフのシフト情報、店舗設備の配置などのデータを収集し、お客さまの買い回り動線とともに分析した結果、「店内の高感度スポットに店員を重点配備する」という施策によって顧客単価平均約15%アップを実現しました。さらに大規模プラントにおいても、運転ログの分析から機器操作に関する人の工夫を学習し、高効率な運転による運用コストの最適化に貢献しています。

これらHが考えた施策は、それぞれの業務分野の専門家でさえ発想できなかった仮説に基づいたもので、いかにAIという存在が、膨大なデータの奥底に眠っている新たな可能性を見いだす力を持っているか、が証明されたものと言えるでしょう。

またHは、現場担当者の経験則による工夫や改善が加わって生まれた結果を、再び取り込んで解析することで、より高い効果を生み出す結果を選び出し、次の業務指示に反映していくこともできます。人とHが相互に協力し合うこの繰り返しが、業務効率を継続的に高めていく重要なポイントとなるのです。現在この継続的な改善はまだ研究段階ではありますが、大きなポテンシャルを秘めています。
Hを適用して企業の経営課題解決を目的としたコンサルティング後に「Hitachi AI Technology/業務改革サービス」を利用することで幅広い業種で多くの実績を上げ始めています。

「今後のビジネスイノベーションの世界で“人”が勝負する相手は“AI”ではありません。自分の経験や勘だけに頼る人と、AI+ビッグデータを活用する人という“人と人”との勝負になるのです」(矢野)

人間が幸せになることが基本要件

「アウトカムを的確に定義することが重要です。AIはこのアウトカムに基づき判断することになりますので、人が持てる力を発揮し、活性化している状態では、幸福感が高まります。逆に、せっかく持っている力を出しきれない不活性な状態では、人に不全感が残ります」(矢野)

組織全体として活性化した状態を創ることは、生産性の高い組織づくりには欠かせません。日立は、名札型ウェアラブルセンサーによる身体運動のデータを活用して集団の幸福感(ハピネス)を計測する技術を開発し、これによって計測した指標を「組織活性度」と呼んでいます。これをAIに入力することによって、どんなコミュニケーションのとり方や時間の使い方をすれば、自分と周りの活性度を上げ、自分もハッピーになれるかをAIが教えてくれます。

あるコールセンターでは、ウェアラブルセンサーからのデータも含めたAI活用で業績向上に成功しています。具体的には 、名札型のウェアラブルセンサーを従業員につけてもらい、どのようなコミュニケーション状況や時間の使い方が、従業員の幸福感を高めるかをAIに日々解析させました。その結果、スーパーバイザーが誰に声かけをするのか、AIがデータに基づき日々アドバイスすることで、組織活性度が増し、受注率が約27%も増加したことが確認されました。

同様の事例は、三菱東京UFJ銀行や日本航空でも実施されており、今後は組織活性度をもとにした生産性の向上施策に生かされていく予定です。

デジタルトランスフォーメーションをトータルに支援する日立

いま世の中では、SNSやIoT、ウェアラブルデバイスなどから集められた情報をビッグデータとして、AIなども活用した高度なアナリティクスにより、新しいビジネスモデルの創造や組織パフォーマンスの最大化、マーケティングの高度化などにつなげていく「デジタルトランスフォーメーション」への期待が高まっています。そのイノベーションを後押しする重要な役割を果たすのが、AIとビッグデータ、お客さま個別の業務課題とデータの相関性を読み解くアナリティクスの知見や技術です。

もちろん、お客さまの経営課題にはさまざまなパターンがあり、解決法もそれに合わせて選ぶ必要があります。例えば、いまだ顕在化していないニーズや課題を明確にしつつ価値創造を図りたいという場合には、人間の暗黙知の見える化やプロジェクトの推進に向けた関係者の合意形成を行う価値協創手法「Exアプローチ」などの人間系手法が有効です。

また、多種多様なビッグデータを、一定の仮説のもと多様な切り口から分析したい場合には、データ統合から活用までを短いサイクルで実現するデータ統合・分析基盤「Pentahoソフトウェア」などが役立ちます。

一方、仮説の想定が難しい課題にこそ人工知能が適しています。Hは一見無関係にも思える膨大なデータの中から最適解を見つけ、人の経験からでは見いだせなかった思いも寄らない関係性を仮説設定なしに発見することができるからです。将来的には、日々変化する経営環境に合わせて柔軟にシステムを成長させることができるようにもなるでしょう。

「企業は固有の歴史や文化を背景に、業界内の立ち位置に応じた独自の強さ、利益を生み出せる場所というものを必ず持っています。経営環境が変化するなか、経営者たちは、その場所を探し出すため日夜努力しているわけですが、世の中や業務を映し出す大量のデータの中に必ず答えは潜んでいます。私たちはそうしたお客さまの未来の可能性を一緒に探し出し、実現していくパートナーとなるために、これからもHの機能強化と適用シーンの拡大に力を注いでいきます」(矢野)

企業や社会のイノベーションを支えるデジタルトランスフォーメーションでは、現実世界とデジタル世界(現実世界を投影したデータで解析・シミュレーションを行う世界)の相互循環が、ビジネスの成長と競争優位を支える価値を生み出していくと考えられています。日立は双方の世界に対し、幅広い事業ドメインで培った業務ノウハウとビッグデータの蓄積・活用、AIやアナリティクス、それを支えるITプラットフォームのトータルソリューションで、お客さまのビジネス変革を力強くサポートしていきます。

画像: 人工知能の処理の流れ

人工知能の処理の流れ

さまざまな現場活用で進化していくAI

日立が開発した人工知能 Hitachi AI Technology は、これからどのような価値を生み出していくのか、その具体的な事例や将来に向けた新技術などをピックアップしました。

■三菱東京UFJ銀行で生産性向上に向けた取り組みを支援(2015年9月25発表)

国内の金融機関では、新しい商品・サービスの迅速な提供やお客さま対応業務の品質向上、行員のワークスタイル改革に向けて、人工知能技術など最先端クラスのICTの金融業務への適用が検討されています。日立は、三菱東京UFJ銀行において、業務中に装着した名札型のウェアラブルセンサーから、体の動きに関するデータを収集し、組織の生産性との相関性が高い「組織活性度」を算出。同時に、行員のコミュニケーションとその頻度、業務の継続時間などに関するデータも計測し、職位や年齢などの属性、懇親会などの行事の有無と関連づけた分析を行い、組織活性度に与える影響が大きい要素と、その影響度を定量的に算出しました。

今回活用した人工知能技術は、さまざまな種類のビッグデータをもとに、業務の生産性や業績の向上といった組織の大きな目的と関連する事象や条件の組み合わせを自動的に抽出するもので、目的の達成につながる具体的な仮説と改善施策の立案に貢献します。

■人とコンピュータの論理的な対話を実現するAI技術(2015年7月22日発表)

賛否が分かれる議題について、人と人工知能は対話できるのか-その難しいテーマに応えるため、日立は東北大学大学院情報科学研究科の乾・岡崎研究室の協力のもと、大量のテキストデータを解析し、賛否の根拠や理由を提示する技術を開発しました。

具体的には、定評のある英文のディベート・データベースから、人やコミュニティが賛否を判断する基準にしている健康や経済、治安などの「価値」をリスト化。それぞれの価値と深い関連がある単語を自動抽出し、その価値に対してポジティブか、ネガティブかを振り分けた「価値体系辞書」を作成しました。例えば「健康」という価値に対し、「運動」という単語はポジティブ、「肥満」はネガティブに振り分けます。そしてこの辞書をもとに、ニュース記事のテキストを解析し、より確実性の高い根拠や理由を抽出。複数の価値を基準とすることで、一つの視点に偏ることのない根拠や理由を提示します。

これは人と論理的に対話できるAIの実現に向けた基礎技術となるもので、将来的には企業が持つ文書や公開されているレポート、病院の電子カルテなどを解析し、業務を支援するデータや意見を生成するシステムへの応用が期待されています。


お問い合わせ先

(株)日立製作所 研究開発グループ
https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/hqrd/rd/jp/form.jsp

■ 情報提供サイト

http://www.hitachi.co.jp/rd/


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